the favorite「はい。ハッピーバレンタイン」
そう言って差し出されたのは、赤薔薇の花束だった。
ぱっとは数えられないが、10本や20本じゃない。綺麗にラッピングされて、群青色のリボンが巻かれていた。
「えっと…これ、…は?」
戸惑いながら見上げると、ネオはこちらの反応が薄いことに首を傾げていた。
「知らない? バレンタイン」
「いえ…今日がバレンタインデーだということは知ってますが」
「オレの出身では、こうやって花を贈るんだけど。プラントは違うのかな」
とりあえず押し付けられた花束を受け取る。薔薇にしては香りが薄めだった。
「プラントではそういうの、ないですけど…オーブにいたときはチョコレートをもらいましたよ。女性が男性にチョコレートを渡して、告白をする日なんだそうです」
懐かしく思いながら言うと、ネオがむっとしていた。その意味に気付いて苦笑する。
「義理チョコですよ。本命と義理に分けるんだそうです」
「どうだか。鈍いからな、おまえ」
そういう話題になると、いつもこうなのだ。ふて腐れたような、子供っぽい反応をする。愛されているのはよくわかるのだけれど。
「つまり、オレからチョコレートが欲しいってことですか?」
「なんでそうなる」
「欲しくないんですか?」
「……………欲しい」
そう言って、手を差し出してくる。まったく、もう。
「はい、どうぞ。既製品ですけど」
バレンタイン用のラッピングされたチョコレート。バレンタインの話が出なかったら、渡さずにおこうかとも思っていたのだけど。
「これは、…本命?」
受け取って、しばらく感慨深そうに見つめてから口を開く。わかってるくせに、にやにやと嫌な笑みで訊いてくるから。
「義理です」
即答してやる。
それでもネオは余裕の笑みだ。ほんと、たちが悪いというか性格が悪いというか。なんで一緒にいるんだろう。
「じゃ、こっちが本命だな」
油断していれば、さらりと唇を奪われる。なにがなにで本命なんだ……もう。
「じゃ、チョコ食べようぜ、一緒に」
「………はい」
オーブではホワイトデーなんていうものが3月にあるのだけれど。面倒だから教えないでおこう。
end.
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